どうも。3年の高野です。
9月24日、ユーミンこと松任谷由実の楽曲全424曲の配信が開始されました。10月8日付オリコン週間デジタルアルバムランキングでは、『日本の恋と、ユーミンと。』が初登場1位を獲得したのを始め、全20作品がTOP100にランクイン。何かと注目されているようです。
と言うことで今回も、ユーミン配信開始を記念しまして、ユーミンのオススメのアルバムをご紹介します。
このままユーミンの世界にどっぷりハマってしまいましょう。
【中級編】
14番目の月(1976年)
活動期間はたったの4年ぽっちですが、何かと伝説の荒井由実時代。その間、4枚の名盤を世に送り出しました。
前回の初級編では1stアルバム『ひこうき雲』をご紹介しました。残るは『MISSLIM』、『COBALT HOUR』、『14番目の月』の3作品なのですが…。
つべこべ言わずに全部聴け!!!!!
中級者の貴方は、全作聴きましょう(笑)。とは言っても、全作紹介していると、それだけで中級編が終わってしまいそうなので、今日の気分で一番好きなアルバム『14番目の月』を取り上げようと思います。
荒井由実時代最後のアルバム。1stアルバム『ひこうき雲』は、天才少女の純粋な感性が光輝く、いい意味で初々しい作品でした。しかし『14番目の月』は、デビュー4年目にして既に「ユーミン・ブランド」を確立し、立派なミュージシャンへと成長したユーミンの職人魂が籠もった、技巧的な作品に仕上がっています。
前年、ユーミンがフォークグループのバンバンに提供した「『いちご白書』をもう一度」が大ヒット。続けてユーミン自身も、シングル「あの日にかえりたい」がチャート1位の大ヒットを記録しました。その為、予算的にも余裕があったのか、ストリングスやホーンセクションも充実し、これまで以上に厚みのあるサウンドになっています。
ユーミン流ポップスとも言うべき軽快なピアノのイントロから始まるM1「さざ波」と、アップテンポのタイトルチューンM2「14番目の月」で、華々しく幕開けです。
そして、M4の壮大なバラード「朝陽の中で微笑んで」に続くのは、あの伝説の名曲「中央フリーウェイ」!
「右に見える競馬場 左はビール工場」というフレーズはあまりにも有名です。元祖ドライブソングということで、ユーミンの代表曲に挙げられる楽曲ですが、個人的に、ユーミンに感謝したいぐらい大好きな曲です!こんな名曲を作ってくれてありがとう…。
ユーミンの歌詞は、情景が思い浮かびやすい、とよく言われます。「中央フリーウェイ」はまさにその筆頭。実は曲が進むにつれ、情景が微妙に変化しているんです。
時間は「黄昏がフロント・グラスを染めて広がる」→「町の灯が やがてまたたきだす」→「この道は まるで滑走路 夜空に続く」と変化し、場所は「調布基地を追い越し」→「右に見える競馬場 左はビール工場」へと変化しています。だけどその変化って、ほんの一瞬なんです。
「中央フリーウェイ」は、東京のスタジオから実家のある八王子へ向かう帰り道を、彼氏の松任谷正隆氏に車で送ってもらっているユーミン自身がモチーフの曲なのですが、だったら、思い切ってゴールの八王子まで曲にしてもよかったじゃないですか。だけどユーミンは、帰り道の中で、最も美しい時間、最も美しい景色、その一瞬の情景を曲にしたかったのだと思います。前編でもご紹介しましたが「永遠の一瞬論(私が勝手に名付けました)」なのでしょう。
また、ユーミンのどの曲にも言えることなのですが、直接的なメッセージ性も皆無なんです。だけど私たちは「中央道って、どんだけ美しいところなんだろう!?」と胸をふくらませるのです(実際大したことはないですがw)。メッセージ性のないことが、ユーミンからのメッセージなのかもしれません。
無駄が一切ない、名曲中の名曲だと思います。中央道を走る際はぜひBGMに。
「中央フリーウェイ」と並ぶぐらいの名曲が、『14番目の月』にはもう一曲収録されています。本作のラストを飾る「晩夏(ひとりの季節)」です。
夏の終わりの夕暮れの、あのなんとも言えない哀愁感が伝わってくる楽曲です。歌始まり直前のベース一音と冒頭「ゆく夏に〜」で、もうお察しです。それぐらい、世界観が緻密に作られているのです。
空色は水色に
茜は紅に
(中略)
藍色は群青に
薄暮は紫に
「空色」と「水色」、一体何が違うのでしょう。「茜」と「紅」も。その他の色も。ぜひ検索して、色の違いをご確認していただきたいのですが、ほとんど変わりません。だけどユーミンは、その一瞬の空の変化を見逃しませんでした。さすが、常人にはない感性の持ち主です!
せっかくなので、残りの2作も超ザックリ紹介しておきます。
『MISSLIM(1974年)』
「やさしさに包まれたなら」「海を見ていた午後」「12月の雨」etc.収録。
「海を見ていた午後」の一節「ソーダ水の中を貨物船がとおる」は永遠に受け継がれる名フレーズ。
『COBALT HOUR (1975年)』
「卒業写真」「ルージュの伝言」「雨のステイション」etc.収録。
既にご存知の「ルージュの伝言」も耳を澄まして聴いてみると、間奏で「あれ?山下達郎じゃん。」と気がつく。ちなみに「ワッワッ!」とやっているのは大貫妙子と吉田美奈子。
4作すべてに、ほぼ全員が知っている楽曲が収録されています。すごい!これは全作聴かないとね!ちなみに、シングルヒット曲「あの日にかえりたい」と「翳りゆく部屋」は諸々のベストアルバムに収録されているのでご確認ください。
(14番目の月の)オススメの曲
「さざ波」「中央フリーウェイ」「グッド・ラック・アンド・グッドバイ」「晩夏(ひとりの季節)」
流線形’80(1978年)
荒井由実時代の作品なんて、とっくに聴いてるわ!という方、結構いらっしゃると思います。ですが、それで満足していませんか?
甘いですよ!!!
松任谷由実時代の作品も荒井由実時代に負けず素晴らしいんです!34作もありますが、その中から厳選して3作品ご紹介します。
時代の一足先を行くユーミン。1980年代を見据えていたのでしょうか。発表は1978年ですが、タイトルは『流線形’80』です。
M1「ロッヂで待つクリスマス」、M3「真冬のサーファー」、M6「キャサリン」、M8「入江の午後3時」などのリゾート(っぽい)ソングも多数収録し、前編でご紹介した『SURF & SNOW(1980年)』のコンセプトの先駆けとも言えそうな作品です。ソースは明確ではないですが、確かSURF & SNOW構想はこの時点で既にあったはず。
M2はライブの定番でユーミンの代表曲「埠頭を渡る風」。ホーンセクションやストリングスが華麗に鳴り響き、疾走感のあるラテン・テイストの楽曲です。同年、ニューミュージック系女性シンガーソングライター・八神純子の「みずいろの雨」や、サザンオールスターズのデビュー作「勝手にシンドバッド」がヒット。この時期は、ラテン・テイストの楽曲が流行っていたのか、結構目立ちます。
M3は、「ん?山下達郎の曲か?」と勘違いしてしまうぐらいにタツロー・コーラスをフィーチャーした「真冬のサーファー」。ちなみにギターソロもタツローです。山下達郎は74年『MISSLIM』から79年『OLIVE』まで、レコーディングメンバーとして参加しています。「RIDE ON TIME」の大ヒットが80年ですから、メジャーアーティストの仲間入りする直前まで、裏方で活躍していたことがわかります。
M7は、薬師丸ひろ子「セーラー服と機関銃」などの作曲でお馴染み、来生たかおとのデュエット作「Corvett 1954」。
M9はどこまでもセンチメンタルな「かんらん車」です。静かに降る雪と、緩やかに動く観覧車。「静」と「動」の対比が本当に美しい楽曲です。アレンジも素晴らしい。ユーミンはポップな作品を歌っている印象が強いですが、「かんらん車」のように、中島みゆき並みに暗い楽曲が、意外と名曲だったりします。
オススメの曲
「埠頭を渡る風」「真冬のサーファー」「かんらん車」
REINCARNATION(1983年)
松任谷姓になってから、荒井由実時代ほどのヒット作に恵まれなかったユーミン(普通にチャートトップ10には入っていますが)。しかし、1981年にシングル「守ってあげたい」が久々に大ヒット。第二次ユーミン・ブームの到来です。
そんな勢いに乗ったユーミンが1983年に発表したアルバムが、『REINCARNATION』です。
この頃のユーミン、「化け物」なんです(笑)。1983年で言うと、約10ヶ月後にはフルアルバム『VOYAGER』を発表。職業作家としても活躍していたユーミンは、松田聖子に「秘密の花園」と「瞳はダイヤモンド」を提供、原田知世に「時をかける少女」を提供しています。(東芝EMIの社畜かな。)
ユーミンは、時間やSFをテーマにした作品を数多く手がけています。本作『REINCARNATION』はその代表。名のごとく「輪廻転生」をテーマにした作品です。
宇宙空間にいるかのようなSEで始まるM1「REINCARNATION」。本作の軸とも言うべき楽曲だけあって、神秘的で壮大な楽曲…、かと思いきや、間奏や終奏でのギターソロが一際目を引く、ロック色の強い楽曲です。そう、本作のテーマは「輪廻転生」だけど、オカルティックな雰囲気は終始ありません。寧ろ、今まで以上にポップでロックテイストの強いアルバムなのです。
カットインで始まるM2「オールマイティー」やM6「ESPER」も、ユーミン流のポップなロックナンバーだし、M4「星空の誘惑」は、「続・埠頭を渡る風」とも言うべき、華やかなサウンドと疾走感のあるアップテンポな楽曲です。
M7「心のまま」もミディアムテンポながら、間奏やアウトロではメロディアスなギターソロがあります。
私の見た雲は 馬のかたち
あなた何に見えた
言葉にしてるまにちぎれてゆく
それは愛に似てる
ああ、なんて天才なんだ。大好きな歌詞です。
しかし、本作では唯一都会的な世界観のあるAOR調のM3「NIGHT WALKER」や、M8「ずっとそばに」、ラストを飾る「経る時」といったバラードも充実しています。とりわけ「経る時」は、ファンの間でも傑作だと名高い一曲。
「経る時」は「ふるとき」と読みます。桜の名所・千鳥ヶ淵沿いにあったホテルから臨む四季の風景を描いた楽曲です。4月ごとに開花する桜。空から舞い散る桜の花びらは、「薄紅の砂時計」の砂の如く、まるで時が「降ってくる」かのよう(だから「経(ふ)る時」なのです。)。このように、一年周期で咲いて散る桜も、一種の「輪廻転生」だと言えます。
歌詞に登場する「寂れたホテル」や「老夫婦」も、いずれは「輪廻転生」します。だけど、桜もホテルも老夫婦も、それぞれの「一生」の長さは違うんです。だから「輪廻転生」の周期もみんなバラバラ。この世界は、様々な時間が交差して成り立っている、ということを暗示する楽曲だと思います。
オススメの曲
「NIGHT WALKER」「星空の誘惑」「経る時」
ダイアモンドダストが消えぬまに(1987年)
いよいよバブル突入で、ユーミンの勢いも絶好調。全編にユーミンの楽曲が散りばめられた邦画『私をスキーに連れてって』も公開され、いよいよ第三次・ユーミンブームの到来です。そんな中発表されたアルバムが『ダイアモンドダストが消えぬまに』。本作、次作『Delight Slight Light KISS(1988年)』、次々作『LOVE WARS(1989年)』をあわせて「純愛三部作」と題し、「恋愛の教祖」というポジションを確立させました。当時は、フジテレビのトレンディードラマや、村上春樹の「ノルウェイの森」が大ヒットするなど、純愛ブームだったようです。
まさに、バブル期の東京の空気感を封じ込めたかのようなアルバム。例によって、シンセサイザー・シンクラヴィアのサウンドが時代を感じさせますが、このギラギラした華やかな電子サウンドは、ユーミンの漲る自信を体現しているかのようです。「恋愛の教祖」としての貫禄が感じられます。
タイプライターを打ちこむSEで始まるM1「月曜日のロボット」。OLの味方ユーミンが、都会で働く女性の月曜病を歌った楽曲です。
続くM2はタイトルチューン「ダイアモンドダストが消えぬまに」。ギターの軽快なカッティングが冴えるポップ・チューン。「シャンパンの泡」と「スキューバーダイビングの泡」を「ダイアモンドダスト」に例えたトリプルミーニング技は、まさに職人芸としか言いようがありません!
M4「SWEET DREAMS」は切ない恋の終わりを歌ったバラード。
この電話が最後かもしれない
他人事に思える 涙だけ溢れて
もう切るわと何度も云いながら
ひきのばすのは私の方
私たちのコミュニケーションツールはLINEやらTwitterやらのSNSで、時間を問わずいつ・どこでも連絡が取れる時代。しかしバブル当時は「固定電話」が主流です。時代を感じさせるシチュエーションですが、このいじらしさは今でも十分に通用しますね。
M7「SATURDAY NIGHT ZOMBIES」は、裏番組だった「8時だョ!全員集合」を打ち切りに追い込んだという伝説の番組「オレたちひょうきん族」のエンディング曲。ギロッポンのバーを舞台にしたバブル感満載の一曲です。
ここまで、ピコピコ電子サウンドの目立つ楽曲が続きましたが、ラストを飾る「霧雨で見えない」は、しっとりとした生サウンドで奏でる王道バラード。メロディアスなサキソフォンのソロが美しい。1984年に、ハイ・ファイ・セット他に提供した楽曲です。霧雨の特有の空気感や質感が伝わってきます。
ユーミン自身、本作『ダイアモンドダストが消えぬまに』はかなりお気に召しているようで、アルバムが完成した時、自身の才能に感動し、神棚に拝んだとか拝んでいないとか。俗社会にどっぷり浸かった作品ではありますが、軸は一切ブレていません。時代を反映させつつも、十分に普遍さもある非常に完成度の高い作品だと思います。
ちなみにCDジャケットは、ピチカート・ファイヴやフリッパーズ・ギターなどの渋谷系アーティストのアートワークにも携わった、信藤三雄氏によるもの。帽子を被り、自慢の美脚を見せつける11人のユーミンがズラッと並んだデザインは、ユーミンの勢いと迫力を感じさせます。
オススメの曲
「ダイアモンドダストが消えぬまに」「思い出に間にあいたくて」「LATE SUMMER LAKE」「霧雨で見えない」
前回、中級編と上級編をまとめてご紹介すると予告したのですが、中級編も結局長ったらしくなってしまったので、上級編は次回に回します(笑)。すみません。
中級レベルのアルバムはたくさんあります。80年代のアルバムはほぼ全て中級レベルと言えるでしょう。ですので、上記で紹介した作品以外でも、直感でピン!と来たアルバムがあれば、ぜひ聴いてみてください。
(文・ワセレコ3年 高野)