【インタビュー】自粛中も学生音楽を絶やさない。早稲田アーティストのコンピレーショ ンアルバム「アマビエ」配信に込めた想い

2020年8月1日、「外出自粛での真剣な遊び」をコンセプトにしたコンピレーションアルバム『アマビエ vol.1』『アマビエ vol.2』の配信が開始した。

 

 

 

アルバムには早稲田大学のサークルを起点に活動する11組のアーティストが参加、全16曲の書き下ろし曲が収録されている。
収録曲はポップスからヒップホップ、アフロビートまで多岐に及んでおり、
ジャンルを飛び回るその内容は早稲田の音楽文化そのものを象徴しているともいえる。

今回は企画の発起人である後等太一さんに、アルバムに込めた想いや自粛期間における学生音楽のあり方についてお話をうかがった。

 

 


— はじめに後等さんの簡単な自己紹介をお願いします。

立教大学現代心理学部4年の後等太一です。普段は早稲田大学の中南米研究会とMusic Fan Club という2つのバンドサークルで活動していました。

 

— ありがとうございます。僕も同じサークルに所属していますが、現在は新型ウイルスの
影響でサークル活動も止まってしまっていますね。そんな中で今回の企画に至ったきっか
けを教えていただけますか。

具体的な企画自体を思いついたのは3月31日の夜、緊急事態宣言の出る少し前の時期でしたが、
そもそものきっかけは3月13日のceroの配信ライブですね。

業界初の有料ライブ配信だったのですが、そうやってプロの大人たちが積極的に動いているのを見て、
こういう代替案があるんだ、やってもいいんだ、と驚いたのがすごく残っていたんです。

僕や僕の周りではそれまで定期的に開催してきたDJ イベントやサークル活動が全て止まってしまっていて、
この先「遊び」がないまま時間が過ぎてしまうなと思った時に、みんな家にいながらにして音楽で遊ぶ、というのができないかな、と思ったんです。

 

— 確かにこの状況では遊びの部分がどんどん切り詰められてしまいますもんね。「外出自
粛での真剣な遊び」というコンセプトはとても印象的でした。

普段のサークル活動や音楽活動はみんな真剣にやっていて、だけどそれは「遊び」であるべきだと思うんです。

プロで音楽をやっている方がいま食いつなぐ覚悟で試行錯誤しているのに対して、僕たちはそこまでのことはできないとしても、普段サークルでやっていた延長線、等身大の「遊び」を絶やしてはいけないという思いがありました。

 

— 今回の参加アーティストはみなさん早稲田大学で音楽をしている方々とお聞きしました

そうですね、みんな僕の知り合いで、「この人の新曲ならぜひ聴いてみたい…!」と思える人たちにお願いしました。
みなさん快く引き受けてくれて、企画を思いついた翌日には10組くらいに集まってもらえました。

 

— 僕も早稲田で音楽をしている方々を知っていますが、確かに面白がってくれる方が多そうです。

結果クオリティの高い楽曲ばかり集まって、本来ならお金を払うべきレベルのことをみんな「遊び」で、タダで引き受けてくれて、友達ってすごいなって。
ただ、今後続けていくならお金周りのこともしっかり考えていきたいですね。

 

— リモートでの作業が中心になるなか、全曲書き下ろしというのも印象的でした。

制作期間は緊急事態宣言の最中で、みんなバラバラに家にいて会えない時間が続いていて。
そんな中アマビエを聴いた時に「俺はあの時期こんなことやってたけど、あいつはこの曲作ってたのか」って思ってくれるような、
つまりあの期間にみんながそれぞれ何をやっていたのかが凝縮されたアルバムにしたかったんです。

 

— 界隈の中でのコミュニケーションにも繋がりますね。

そのきっかけになればいいな、というのはありました。

特に実際いちばん最初にアルバムを聴いてくれるのは早稲田の知り合いや友人が多いと思ったので、「あいつ今何してんのかな」っていうのが分かることだったり、聴く人どうしのコミュニケーションにも繋がればいいなと思って制作しました。

 

— 後等さんの周り、早稲田という限られた場所で集まったのにも関わらず、ジャンルも雰
囲気もすごく幅がありますよね。

「ジャンル」としても「人」としてもなるべくバラバラな方が面白いと思ったので、オファーの時点から「この人はこういうの作ってくれそうだから誘ってみよう」みたいに意図的にいろんな人を入れるようにはしていました。

制作期間中もアーティストに注文は一切せず自由に作ってもらったんですが、結果的にこちらが予想していた以上に良い感じにカオスに仕上がりました。

 

— 早稲田の音楽文化の多様性のようなものを感じました。

「アマビエ」は決して特定のサークルのアルバムではないので、
あくまで「学生会館地下1階」の雰囲気を出すことにこだわりたかったんです。

学館ってみんな本当にバラバラで、好きなジャンルもスタイルも全く違う人たちが集まっているんですよね。
ブラックミュージックをやっている人もいればジャマイカの音楽をやっている人もいて、インディーもフュージョンも三味線もいろんな音楽が交わっているのがすごく魅力的だなと思っていて。

せっかくみんな音楽が好きなんだし、それをみんなもっと交流させていけば新しいことが生まれたり、新しい出会いができるんじゃないかな、っていうのはDJイベントの時からある根本のアイデアですね。

 

— 確かに学生会館の地下を歩いていると、いろいろな背景を持った人たちが集まっている
印象を受けますね。

それが面白いなと思います。

ただ、みんなお互いに挨拶しないし、あまり交流を持とうとしないんですよね。
修学旅行先の宿で違う中学校どうしがすれ違う時の敵対感みたいなのをずーっとやってるじゃないですか。
あれにすごく違和感があって。

 

— 確かに言われてみればそうですね。

みんな音楽がちょっとでも好きで、それで毎日のように学館に通っているはずなのに、そういうところで張り合うのはもったいないと思っていて。
それをどんどん壊していきたいな、とは考えていますね。

 

— アルバムの随所にジングルが挿入されていますが、どんな意図があったんですか。

アルバムをコンセプチュアルなものにしたかったんです。

コンピレーションアルバムって中にはただ曲を寄せ集めただけのものもあるんですけど、これはアルバムとして通しで聴けるものにしたくて。
バラバラだけどどこかまとまりもある、っていうのが界隈の魅力だと思っているので、それを表現するためにも始めや終わりに同じアーティストによるジングルを入れてまとまりを演出しました。

 

— たしかにそれぞれの曲はバラバラですが、全体ではアルバムとしての締まりが感じられ
ます。

ジングルだけでなく、ジャケットや曲順にもこだわりました。
特にジャケットに関しては担当してくれた方がとても頑張ってくれたおかげで、すごくシックでかっこいいデザインに仕上がっていて。
ある種ブランド性を作れたというか、コンピレーションアルバム特有の雑多なイメージを払拭できたかなと思っています。

あとは全曲のマスタリングを1人に任せた、というのも大きいですね。
アルバムを通して1人のマスタリングエンジニアを置くことで、アルバムとしてのまとまりを持たせました。

 

— アルバムを2枚組にしたのも何か意図があったんですか。

アルバムの再生時間が長くなってしまうのを避けたかったんです。
40分とか50分のアルバムって聴くのに抵抗があるというか、通して聴いてくれないんじゃないかな、と思って。
2枚に分けてそれぞれ30分以内に収めることで聴きやすさに繋がればいいなと思いましたし、あとはやっぱり2枚出しってなんか凄そうじゃないですか。

 

— 確かに凄そうです。

もともとは2枚の間に順序とか意味を付けたくなくて、
ポケモンみたいに「アマビエ赤」「アマビエ緑」というタイトルに決めていたんです。
規約の関係で「アマビエvol.1」「アマビエvol.2」になってしまったんですが、どっちから聴く、とかは無いので自由に聴いてほしいですね。

 

— 後等さん自身も「無能の人」という楽曲で参加されていますが、いろんなジャンルの中
でアフロビート、というのが面白いですね。

自分の技術的にアフロビートなら出来そうだな、っていうのもあったんですが、いちばんはアフロビートを打ち込みでやってみたい、というのがこの曲の最初のアイデアだったんです。
家にいてバンドでの演奏もできないですし、第一打ち込みでアフロビートやってる奴なんてたぶんあんまりいないよな、と思って。

 

— 歌詞の世界観も不思議ですよね。

内容としては、具体的なことは言ってないけどよく考えると確かにそうだよな、というのを言ってるつもりですね。

あとは中盤で「夢の中」「家の中」っていうワードが出てくるんです。本来ならどっちも他人に見られないエリアだったものが、zoomとかでこうやって毎日家の中が見られるようになった今、プライバシーの最後の砦がもう夢の中みたいなものしか無いなあ、と思って。
夢の中まで見られるようになったらもう終わりだな、みたいなことを考えて書きました。

ただ、歌詞を書くのはほんとに苦手というか、すごく時間がかかりましたね。
ボーカルはスタジオに録りにいったんですが、実は当日まで書けてなくて、最後はスタジオで録りながら考えたりして。

 

曲は後等さんが叫んでるパートで終わると思うんですが、あれは何なんですか。

その日、予算と時間がギリギリに切羽詰まって集中している状況での収録中に、切り忘れていたLINEの通知音が入って、思わずガチでキレ散らかしたやつなんです。
その日は第一志望の企業に落ちたのもあって高まっててめちゃめちゃ叫んでしまったんですけど、曲のアウトロにはめてみたらそれが驚くほどぴったり決まって。面白いので採用しました。
キレてるのが「無能の人」っぽいですし。

 

— リアル叫びだったんですね。ちなみに「無能の人」というタイトルはどう決まったんで
すか?

まあこれもそんなに言いたくはないんですけど、ちょうどマスクの配布とか一斉休校とかの時期だったので、シンプルに言うと政権批判というか、そこから付けたんです。

ただそれを直に言いたくないし、僕自身もこの事態に対して直接解決できるような何かが出来るってわけでもない、つまり「無能」なわけで。
みんなどうしようもないのは同じだし、全員ある意味では「無能」かもなと。

元々は つげ義春の『無能の人』からとっていて、これは主人公が自分を貧しくしていってしまう話なんですが、
ぼーっとしてたら自分もこうなってしまうんじゃないかって初めに読んだときにすごく怖かったし、みんなどっかにそういうところがあるからこの作品が読み継がれてるし評価されてるんだろうな、と思って。
それがリンクしたって感じですかね。

あとこれは偶然なんですけど、最近電気グルーヴの初期音源を漁ってた時に同じタイトルの曲を見つけて、
それがあの「N.O.」の原曲だったと知ったときはなんかグッときましたね。

 

 

 

— アルバムは新入生やコミュニティを探している人たちにも聴いてほしいですね。

そうですね。新歓の時って、ライブ映像を切り取って新入生に見せたりするのが多いじゃないですか。

ただ、知らない大学生のライブって僕もあんまり興味ないし、それならしっかり音源にして誰でも聴ける環境に残したい、と思ったのもきっかけのひとつなので。
僕自身がこういう場所にたどり着くのに時間がかかったので、その手助けになればいいなと思っています。
とりあえず聴いてもらって、雰囲気を知ってもらえればいいかな、と思います。

 

— 今後の展望のようなものがあれば教えてください。

この状況もしばらく続くので、僕じゃないにしろ同じようなことをやってくれるような人が出てきたりとか、僕はもうサークルを引退している身なので、現役生がこういうことをやっていくようになったら面白いな、と思いますね。

もちろんいろんな方の力があって完成に至ったんですが、ちょっとお金を出せば出来ることが分かったし、ぜひ参考にして欲しいです。

今後自分が続けていくとしたらお金周りのことをどういう風にするか考えていきたいですね。
配信の費用も僕が払い続けるのだと回していけるかわかりませんし、続けていくにはコストに対して利益の回収もどうにかやっていかないといけませんから。

とにかく、今回の企画では学生だけでもやればできる、というのが分かったわけで、そこにいちばん意味があると思っています。
これからまだ広げられるところはありますし、有意義なことができたと思います。

 

— 最後に何かあればお願いします。

まずは一緒に制作してくれたメンバーやアーティスト、そして聴いてくださった皆さんに感謝を伝えたいです。
ありがとうございます。

多くの人の協力があって配信に至ることができた、たくさんの思いがこもったアルバムになっているので、
ぜひ多くの人に聞いていただきたいです。

 

 

 

〈作品情報〉

「外出自粛での真剣な遊び」をコンセプトに、全11組が参加。全16曲書き下ろし同時二枚発表コンピレーションアルバム。以下のURLから各サブスクリプションサービスにて視聴可能です。

「アマビエ Vol.1」
https://linkco.re/5nFhArg0

「アマビエ Vol.2」
https://linkco.re/38a9APSD